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Story

Story vol.13
[デザイン・文:土橋 陽子]

「“卒園児のママ”としてではなく、“ママ・デザイナー”として幼稚園にアドバイスを求めに行く照れくささを、まずは乗り越える」

高田社長との他愛もない雑談の筈が、既に時計で有名なレムノスに、「ママ・デザイナーの視点を取り入れた時計」をデザインさせてもらう機会を頂いてしまいます。右も左も分らないけれど、次の一歩として、子供達が通っていたモンテッソーリ幼稚園にアドバイスを求めに行くことを約束します。でも、そこには大きな心のハードルがありました。

ママ・デザイナーの視点ってなんだろう?
時計だらけのレムノスの会議室で、私が「もし時計を作るなら」と雑談レベルで選んだのは、248mmΦの白いマッシブな重量感のある樹脂枠でした。既に壁にある色々なものとの境界線を太い白い枠で物理的にとれるし、枠の太さと円のバランスがミッドセンチュリーっぽい比率で好み、と直感で気に入りました。今思えば、ママであることとは全く関係ない視点で選んでいました。

一方、高田社長のおすすめは、タンバリン職人さんが作っているプライウッドの枠。「幼稚園だと自然素材が馴染むのではないでしょうか?また、大きさも色々ございます。もし枠からオリジナルを作りたいということであればご相談ください。」とのアドバイスでした。結論から言うと、色々検討した結果、社長にすすめて頂いていたプライウッド枠を使ってデザインすることになります。
振り返ると私も頑固な面があると思うのですが、実際デザインすることとなると、時計の大きさひとつ決めるにも「子ども用に使う時計としての確かな理由」が必要な気がしていました。また、せっかくご提案頂いたオリジナル枠を作ることは考えもしませんでした。それには時間も開発費もかかり、その結果として商品代が高くなる可能性もある。それ以前に、枠のカタチを決めることに夢中になって、なにより大事な「60進法の数詞のあるアナログ時計」の内容をつめる時間が減ってしまっては本末転倒です。それよりも、来年のワークショップに間に合せれば、泣かせてしまったお母様のお子さんの*数の敏感期に間に合うかもしれないし、もしまた参加してくれたら直接謝ることも出来るかもしれない。それに、ワークショップに参加して下さる年代のお子さんのいるご家庭で、笑顔が増える可能性があがるわけです。 
 
敏感期とはモンテッソーリ教育の専門用語で、ある一定期間、子どもがいつもと同じ道を通ることにものすごく執着したり、繰り返し同じことをやり続けたりすることがよく見られます。
「子どものいる幸せな日常の風景」から見えてきた、
必要機能を満たす為の時計の大きさ
そこで、レムノスから届いた既存枠サンプルが山ほど入った大きな段ボールを抱えて、子等の通っていた幼稚園に持ち込みました。日本モンテッソーリ教育研究所主任研究員・櫻井美砂先生に子どもにふさわしい時計とはどんなものなのか、教育のプロの意見をうかがってみました。
「世の中には色々な素材があるから、木もプラスチックもどちらもそれぞれの美しさがあります。そういった意味ではどちらの素材の時計も欲しいし、アナログもデジタルも大きさも、様々な種類の時計を園では置くようにしています。時計の見た目は違っても、意味する時刻は同じであることに気がつくことが大事です。
初めて接する時計という意味では、絶えず動いている時間の流れを目で追えるアナログはいいですよね。少しずつしか動かない時計が、実は動いていることを小さな子でも認識できるのは、秒針です。一緒に60数えたら、分針の目盛りは1進んだことを確認したり、お弁当前の静寂を体験する時間に『目を閉じて、1分経ったと思った人から準備をして下さい』と指示したりと、色んな方法で時間と時刻を時計と関連づけて理解を深めるようにしています。」

その言葉をきっかけに大事なことに立ち戻りました。いつも幸せな風景を想像することからデザインをするのでした。
普段は壁にかけられている、子どもにとっては「遠くにある」時計の秒針を指差して、60教えるにはある程度以上の大きさが必要なのではないか?そう考えるとシンプルに、櫻井先生と私が選んだ枠は、高田社長の選んだ枠と同じものでした。

使う枠が決まり、いよいよスケッチを図面に、図面をサンプル試作してもらい、幼稚園にもってくる約束をして、意気揚々と帰宅します。


つづく。

Designer

土橋 陽子
株式会社イデーに5年間(’97〜’02)所属し、定番家具の開発や、「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。イデーの現行定番家具〈bian chair〉や、授乳時に赤ちゃんを起こさない提灯型led照明〈milk time light〉、1枚の展開図を「曲げて」「差し込んで」「折って」作る〈let’s light〉、時計の読めない子が読みたくなるアナログ時計〈fun pun clock〉をデザイン。2012年より「Design life with kids!」インテリアワークショップ主宰。モンテッソーリ教育の視点を生かし、「手を動かしながら、インテリアを作り上げる」ことを心がけ、様々な企業 とコラボレーションして、ワークショッププログラム開発に取り組む。また、インテリアライターとして、ウェブマガジン「All About」「レッツエンジョイ東京」にて執筆中。現在は2児の母親として、子供のいる生活空間の探求、手を動かしながら生活を作ることが目下のテーマ。http://yokodobashi.com/

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