Jp En

Story

Story Vol.12

fun pun clock【開発ストーリー 02】

気軽な気持ちで60進法の時計を探し始めたものの、どこに行っても見つからない。別件のアルミの加工メーカーを探す為に出かけたシンポジウムで、レムノスの高田社長とデザイナーの話を聞き、ひょんなことからレムノス本社のある高岡へ初めての出張に行く事になります。時計だらけの待合室でみたものは?

手に汗握る開発ストーリー第2弾。

[デザイン・文:土橋 陽子]

時計の読めない子が、読みたいと思う時計
「fun pun clock」。

気軽な気持ちで60進法の時計を探し始めたものの、どこに行っても見つからない。別件のアルミの加工メーカーを探す為に出かけたシンポジウムで、レムノスの高田社長とデザイナーの話を聞き、ひょんなことからレムノス本社のある高岡へ初めての出張に行く事になります。時計だらけの待合室でみたものは?

手に汗握る開発ストーリー第2弾。

初めての出張、
雑談の筈が大変なことに?!

子どもも読みやすい時計、というのは最初から頭の中にイメージがありました。「通常のアナログ時計の外側に60進法の数字が並んだデザイン」。どんなにデジタルが発展しようとも、アナログ時計は「“その時刻”になるまで“時間があとどれくらいある”のか」がビジュアルで見られるので、子どもでも感覚的に図形のようなイメージで理解しやすいという特徴があります。

そのイメージに基づいた商品をインテリアショップや雑貨屋、文房具屋、デパートを歩き回って探しました。脚で探すと同時に、ネットでも私なりの検索ワードで画像検索してみました。「こども kids アナログ時計 60進法 12進法 等々」英訳して、海外のサイトや知育玩具なんかもチェックしましたがなかなかヒットしません。

このまま見つからなかったら、来年のワークショップの会場には、数字のウォールステッカーか、コルクに数字を印字して、アナログ時計の周りに貼らせてもらおうと、作り方まで考え始めていました。渋谷にあるファブカフェのレーザーカッターで、簡単なパズルを作ってワークショップにしてもいいなとか。ちかい将来時計を自分でデザインするなんて、この頃は全く考えてもいませんでした。

同じ頃、別件でアルミのパーツを作ってくれるメーカーを探していました。Facebookで10年ぶりに再会したTRUNKの桐山氏に相談させてもらうと、「今度、富山のアルミの加工が上手な企業の社長さんとデザイナーさんの講演会がありますよ。」との案内を頂き、家族に相談して夜の時間帯でしたが出かける事にしました。講演会終了後、「質問のある人」が並ぶ長い列に並び、やっと自分の番になり慌てて「このプロトタイプを作ってもらえますか?」と、トートバッグから模型を出そうとしたところ、

「開発途中のものは大勢の前で見せない方がベターですよ、高岡で見せて下さい。」とレムノス・高田社長に言われ、頭が真っ白になりました。私はお母さんだし、夜の外出でさえ難しいと考えていたので「出張」なんてとんでもないことでしかありませんでした。

でも、高田社長のモノ作りへの真摯な姿勢と、なにより一緒に登壇されていたデザイナーさんからの信頼のよせられかたを見て、その関係性に憧れました。昔のイデーの黒崎さんとデザイナーさんの様子を思い出していました。

とにかく行ってみよう、だめで元々。

その頃は北陸新幹線もなく、4時間半かけて向かう電車で「そういえば!レムノスさんって渡辺力さんの時計を出しているメーカーさんだ」と思い出し、頭にある「探している理想の時計」をスケッチブックにメモ書きしました。最初のスケッチは、枠の外に数字がはみ出している気持ち悪い時計でした。

高岡駅まで迎えに来てくれたのは、驚いたことに高田社長ご自身でした。車の中で、今コンペに挑戦していてプロトタイプを作ってほしいこと、ワークショップに使う壁掛け時計がなくて困っていること、1人でこんな遠くの知らない人しかいない街に来るのが初めてなこと等、夢中でお話しました。

レムノスさんの事務所は時計だらけでした。残念ながら、そこにも私の探している60進法の時計は見当たりませんでした。当初の目的のコンペ用模型とスケッチをみせると「うちでは土橋さんの作りたいパーツについて、残念ながらご協力できる事はございません。でも力になれるかもしれない人をよびましょうか?」と親切なお申し出を頂きました。あろうことか他のメーカーの方と打ち合わせをさせて頂き、待っている間に時計のヒミツをホワイトボードで説明してもらい、アルミの加工方法も知っておいた方が今後のためになるだろうと、高田製作所も案内していただきました。

夜ご飯をごちそうになったら、部屋ですることもなく、当初の目的が果たせそうにない事やレムノスにも60進法の時計がないことにがっかりしていました。そのうち「どうしてあんなに時計を作っているのに、私の探している時計を作っていないの?!」と、憤りのようなものも感じて、昼に教わったばかりの時計のヒミツを盛り込んだスケッチを進めました。

帰りの駅までの送迎も高田社長がして下さいました。
「お話しされてらした子供用の時計ですが、あなたがお作りなったらよろしいのではないですか?」

「グラフィックは得意ではありません」
「では、あなたがプロデュースしてどなたかに描いてもらえばいいのではないですか?あてはありますか?」
「グラフィックの友人は何人かいるけど、やりたいことはモンテッソーリ教育の教具の様に『子どもが自発的に気がつく仕組みを持っている』ことで、それをどうグラフィックに納めればいいのか、私も理解してないので指示できません。うちの子が時計を自然に理解したモンテッソーリのアプローチが役に立ちそうなことは分かっている程度です。」
「なるほど。でも、理想の時計がないことは分かっているのですよね?レムノスには優秀なスタッフが何人もいますよ。先ほどのスケッチをもとに、その人達を自由につかってください。そのかわり僕はモンテッソーリ教育がなにかわからないから、それはあなたのお子さんが通われていた専門の先生にご相談してみるのはいかがでしょう?」

なるほど!
櫻井先生に時計や時間の概念を2歳児に教える過程を教えてもらいにいこう。
「デザインできるかどうかの自信はないけど、次にやらなくてはいけない事が明確に分かったので、やりたいし、やってみます」
「お願い致します、楽しみにしています。」



高田社長の大らかな申し出をいただき、満足して別れたものの、時計で既に有名なレムノスに時計のデザインをさせてもらうチャンスをいただくなんて、とんでもないことになってしまったと帰りの電車の中でジワジワ気がついてきました。

つづく。

next

prev

Yoko Dobashi

株式会社イデーに5年間(’97~'02)所属。定番家具開発や、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。2012年より「Design life with kids Interior workshop」主宰。フリーランスデザイナー・インテリアライターとして、様々な企業や媒体と協働して独自の活動をしている。2017年にタカタレムノスにデザイン提供したfun pun clockがグッドデザイン賞受賞。Precious.jpにて「身長156センチのインテリア」連載中。