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Story Vol.14

fun pun clock【開発ストーリー 04】

最初は無知だったので、スケッチしていたおおまかな指標(数字)の配置を素直に図面にして、そんなに悩むこともなくレムノスさんに提出しました。その図面を元に、レムノス開発担当の武脇さんが試作してくださり、サンプルが1〜2週間くらいで送られてきます。

[デザイン・文:土橋 陽子]

「5歳の子に指摘されたカラーリングと60進法の矛盾」

最初は無知だったので、スケッチしていたおおまかな指標(数字)の配置を素直に図面にして、そんなに悩むこともなくレムノスさんに提出しました。その図面を元に、レムノス開発担当の武脇さんが試作してくださり、サンプルが1〜2週間くらいで送られてきます。

平面で真正面から見る時計と、
立体になった時のギャップ

初めてサンプルを見た時は、その完成度にびっくりしてしまいました。でも冷静になってよくよく見てみると、立体にするとガラスの厚みや、文字盤の大きさと針の太さや長さ、指標(数字)の大きさや間隔など、頭で想像していたものとは全く異なった印象になっていました。

沢山失敗していくうちに、段々と、試作をする武脇さんからの電話の質問の意図が分かってきました。最初のうちは「図形的に正しいものが、視覚的に正しく見えない」等、何を言われているのか全く検討もつかず、サンプルを見て初めて「これはおかしなモノを作ってしまった」と気がついたわけです。

子どものための時計を開発するなら、
子どもの意見を聞いてみよう

武脇さんとコミュニケーション取りながら微調整をかけ、「これでいいだろう」となった段階でサンプルを幼稚園に持ち込み、1〜2週間ほど壁にかけてもらっては、櫻井先生に意見を聞きに伺いました。子どもたちが時計に対して出してくれた意見は、想像以上に多角的な内容で、櫻井先生も私も本当に驚きました。

「かわいい」
「この時計は、にせもの。だって、5とか10とかいらないし。でも、まだ読めない年少さんにはいいかもしれない。」
「10,11,12のどこをさしているのか分かりにくい」
「針がなくなって見えるときがある」
「カラフルでいい」
「60でカタチが変わるの?」などなど。

60でカタチが変わるの?

今でこそfun pun clockは、黒・白・赤に木の色に収まっていますが、そう収まったきっかけは、根本的な間違いを5歳の子に指摘されるという衝撃的な体験によるものです。fun pun clockの開発で、最後まで私がムキになっていたのはここでした。

もともと考えていたカラーリングは、「とにかく沢山数を数えていたい」時期の子どもが、10ずつカタチが変化する数の不思議を体験できる、モンテッソーリ教育の「金ビーズ」に基づいた「位」(=「数のカタチ」)による色分けの法則で構成していました。


金ビーズを簡単に説明しますと、真珠大のビーズ1個を「1」として数えていく教具です。

・ビーズ1個は「1」=「点」のカタチ=「緑」色の位
・ビーズ「1個=点」を10個集めると「10」=「線」のカタチ=「青」の位
・ビーズ「10個=線」を10個集めると「100」=「面」のカタチ=「赤」の位 *通称「座布団」
・ビーズ「100個=面」を10個集めると(*通称「座布団」10枚で)「1000」=立方体=大きな「点」のカタチ=「緑」の位
 と、ダイナミックに10ずつ数はカタチを変えていく10進法の考えと、「点」「線」「面」で数学のカタチは表わせるというワクワクを予感させる、美しい教具です。

10進法の「1〜12」を 60進法で読ませるコンセプトなのに、色使いが根本から間違っていることを、感覚的に5歳の子は気がついたのです。途方に暮れている私の横で、教育のプロ・櫻井先生は新しい課題を見つけて目をきらきらとさせていました。

「60進法についての法則に基づいたカラーのルールを土橋さんがスタディーして、新しい時計と数の法則を提案するというアプローチはモンテッソーリ的ですよね。」

さて、同一平面に10進法と、60進法を異なるカラーリングで関連づける方法はあるのでしょうか?

なんとかして「カラー」を取り入れたい。たとえば、ガラス面から文字盤までの厚みに、塗装するとか???

迷子になった時は、最初に戻って優先順位を確認します。12進法と60進法は「針のカタチ」で関連づけることにして、理由のある色のみにしぼる、という決断をします。その中で、見やすさに配慮して、「マットな黒の指標(数字)。艶のある赤。プライウッドの質感」について、色味と艶・質感を吟味します。

多くの園児に「色のある方が可愛かった!!!」と惜しまれながら、シンプルでナチュラルな、どのようなインテリアにも馴染む時計になりました。

贈呈式では、園児の皆さんに「よく最後まで頑張りましたね」と褒めてもらえました。



次回は、「色鉛筆ってどこにあるの? ロゴの話」についてお話しします。

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Yoko Dobashi

株式会社イデーに5年間(’97~'02)所属。定番家具開発や、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。2012年より「Design life with kids Interior workshop」主宰。フリーランスデザイナー・インテリアライターとして、様々な企業や媒体と協働して独自の活動をしている。2017年にタカタレムノスにデザイン提供したfun pun clockがグッドデザイン賞受賞。Precious.jpにて「身長156センチのインテリア」連載中。