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Story Vol.24

STORY OF PANECO CLOCK

世界的な問題となっている衣料廃棄問題。日本でも1日あたり1300トンの服が廃棄されています。ファッションロス問題に向き合った循環型繊維リサイクルボード「PANECO®」を素材に使い、美しさを伴った、メッセージが伝わるようなデザインの時計を目指したPANECO CLOCKについて、五十嵐 久枝氏にお話をいただきました。
この時計開発は素材の魅力を最大限に引き出して伝え、環境問題への意識を持ってもらう取り組みでもあります。

「テキスト:五十嵐 久枝」

パネコとの出会い

「ファッションロス」に独自のアクションを起こした人が現れます。
その人は、什器のデザイン製造販売を手掛ける株式会社ワークスタジオの原和広さん。突然、事務所にたずねてこられたのは2020年4月、コロナ パンデミック始まりの頃でした。大のファッション好きという原さんは、廃棄されてしまう服を使い内装パネルをつくりたい。内装パネルであれば、アパレルショップや什器やインテリアにたくさん使用される。この問題に対して何かアクションを起こさないとダメだという熱い思いを語り、実験途中のサンプルを見せてもらいました。まず、廃棄衣類をパネル化するという考えは理にかない、大いに共感し可能性を感じました。同時にそれを実現する難しさも想像できました。見せてもらったサンプルは、服の繊維に紙や木、カーボンなど異素材をミックスし従来のパネルの様に強度を出すことに試行錯誤していることを物語っていました。表面の見た目も手触りもこのまま使用することは難しく、表面仕上げをすることが前提という考えでつくられたものでした。まだ途中段階でしたが、インテリアでこの問題の一助になれるのであれば喜ばしいという気持ちになっていました。

その後、意見交換を重ね、一度きりのリサイクルで終わらせてしまうよりも何度も繰り返して活用できる循環型リサイクルの可能性はないか。原材料から見直してはどうかと提案したところ、しばらく連絡が途絶え、断念されたと思っていたのですが、今度は 90%以上を廃棄衣料でパネル化に成功したサンプルを持って来てくれたことに驚かされ、協力したいと心を動かされました。パネコと名付けられたこのパネルはサーキュラーエコノミーの実現可能に近づき、その繊維由来を感じさせる見た目は、表面仕上げなしでも使用できる可能性が見え始めていました。

パネコのリサイクルシステム

1)社会から服を回収し、福祉施設でファスナーやボタンを外します。
2)金物が外された衣服を粉砕し細かな繊維にします。
3成型してパネル化しパネコとなります。
4)そしてパネコを使用した什器や空間が再び社会に送り出されます

時を経て使われなくなったパネコは回収され、粉砕し再びパネコに戻ることができるのです。ここが肝要だと思いますが、再リサイクルのシステムが整っている素材にはなかなか出会いません。アップサイクルされた材料が、循環型のリサイクルシステムに組み込まれる。パネコリサイクルシステムは環境負荷を軽減する考えを取り入れていきます。

パネコの表情

パネコはその時に手に入る服の種類によって表情を変えます。大抵は繊維の色が混ざりあいグレーになるのです。いろいろな絵具を混ぜるとグレーに変わる原理と同じ。粉砕した繊維の大きさによって元が繊維とわかるものがあります。よく見ると光るラメが混ざっていたり服の痕跡がわかるものもあります。青色の生地が多く、深いブルーになっているものはデニム生地かもしれません。非常にまれですが、パネコは紙のタグも粉砕混入しているので、タグの印刷が入っていたこともあります。パネコはまるで化石のようにその時代を固定化し、様々な表情を見せてくれます。現在は粉砕した繊維の大きさによって、「サンド」と「ストーン」が用意され、色の濃淡に分けて「ライト」「ミドル」「ダーク」がラインナップされています。パネコは原料が一定でなく様々な服によってできているため個体差、色濃度差がでます。均一ではありません。これがパネコなのです。

パネコ展示会へ

初めての展示会は、2021年5月モリリン株式会社東日本橋展示スペースで開催されました。衣料をリサイクルしたパネコを素材にして、家具を作りました。コンセプトは長く使える家具
いくつかに分割されている棚や収納は、引っ越した先でも置き場所に合わせて形を変えられるため使いやすく長寿命となります。そして、いよいよ手放すときには再びパネコに戻ることができる。サーキュラーエコノミーの仕組みでできたパネコを長く使ってもらうことで、環境負荷を軽減する取り組みとなるのです。ワークスタジオでは、その家具の製作に大きなトムソンの抜き型を使用しました。普段はパズルなど小さいものを抜く型ですが、家具のような大きなものがトムソンで抜けるのかと心配され、苦労しながらもなんとか形になりました。

時計の開発

2021年の夏、掛け時計の商品開発のご依頼をいただき、パネコを使ってみようと思いました。今までにない、服が原料となった環境を考える意図を含んだ製品を作ることへの試みです。まずメーカーであるタカタレムノスから了解をいただいて、デザイン作業が始まりました。張り合わせる、削る、刷るなど、パネコの素材としての可能性を探る試行錯誤を続けます。

トムソン抜き加工

「トムソン加工」という加工方法があります。一枚の厚紙を金属の刃で打ち抜く方法です。アメリカのジョン・S ・トムソン氏が設立したトムソン・マシン社が1909年にトムソン型機械を発売しました。その機械で行う型抜き加工のことを「トムソン加工」とよび、その型をトムソン型といいます。

紙、金属、樹脂、ゴムなど、様々なものがトムソン加工できますが、トムソン加工がよく使われているのは紙箱などの商品パッケージで、外周やミシン目などを一度に打ち抜きます。また、ジグソー パズルもトムソン抜きでつくられているのです。しかし、パネコのように5.5mmの厚さと木のような硬さは上手く抜けるのか、まずは挑戦することにしました。以前の展示会では何とか什器を作った経験がありましたが、壁掛け時計として求められるクオリティーは果たして出せるのでしょうか?

パネコ サスティナブルファッションエキスポへ

2021年の秋、パネコはビックサイトで行われたサスティナブルファッションエキスポに出展しました。ブースコンセプトは「パネコでつくる空間」。ノックダウン、組み換え可能なWall box unitは箱型パネコを連結させ空間をつくり出します。繰り返し使用できる仮設空間の提案です。Wall box unit によって仕切られできた4つの空間、ショップ空間やプライベート空間を演出し、その空間に設置された什器や家具もパネコを使用しています。この展示会にはサスティナブル環境に関心の深い、多くの来場者にパネコを知ってもらう機会となりました。
この会場では、トムソン型で抜いたパネコクロックの前身のプロトタイプが設置されています。パブリックな場を想定した直径 1m の大きな時計です。トムソンで抜けている隙間から光が漏れ出し演出性も感じることができました。

パネコクロック

パネコクロックの試作は、トムソン加工ではきれいに抜けずに苦戦していました。パネコの開発進化は続いていて、より薄い3mm厚が出来上がり、そちらで改めて試作製作を行いました。3mm厚パネコでトムソン加工は成功し、パネコは文字盤として採用できることになります。

数々のデザインスタディを経て最終のデザインが決まりました。数字の入ったナンバータイプと、シンプルなスリットタイプです。ナンバータイプは目の細かい「サンド」を選んでいます。その理由は、数字をよりきれいに見せることから。「ダーク」と「ライト」の2色をラインナップしました。スリットタイプは目の粗い「ストーン」を選び、繊維由来のパネコの質感、粒子の集積を楽しんでいただけるよう、色は「ミドル」を選びました。その時々に仕上がる小ロットのイレギュラーパネコ(カラフル)もスリットタイプで展開させていきます。
表情豊かなパネコを眺めるのにパネコクロックはちょうど良いサイズ感のようです。これからパネコクロックを通してパネコの魅力をさらに引き出していくことができるのかもしれません。ものづくりはたくさんの失敗があって成長し、その成長がまたその次を捜し求めるエネルギーとなっていくのだと思います。

2022 ミラノデザインウィークへ

コロナの影響が残る2022年6月、パネコはミラノデザインウィークへ出展をしました。3mmのパネコは柔らかく、曲げ加工ができるようになり曲面を使った空間の発表をしています。
展示のテーマは「PANECO HOUSE」ホームユーズのファニチャーをパネコで製作しました。テーブル・イス・シェルフ・ブックシェルフ・ソファなど。パネコクロックの試作も発表し、現地で多くの好評を得ました。

2022年12月、ついにパネコクロックはパネコプロダクト製品第一号として誕生しました。
これからは資源をサイクルさせる脱廃棄を考える時代に入ります。時を刻むパネコクロックは、私たちを取り巻く課題の良きメッセンジャー となり、新たな価値と考え方をつなぐ布石になるかもしれません。

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Hisae Igarashi

インテリアデザイナー
東京生まれ。桑沢デザイン研究所インテリア・住宅研究科卒業。1986~1991年クラマタデザイン事務所勤務。'93年イガラシデザインスタジオ設立。商業から様々な空間デザイン・インスタレーション・家具デザインを中心に、プロダクト・キッチンウエア・幼児施設遊具の商品開発など、携わる範囲「衣・食・住・育」と広がりつつある。グッドデザイン賞審査委員、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授、グッドデザイン賞、キッズデザイン賞、他受賞歴多数。
https://www.igarashidesign.jp/