Jp En

Story

Story Vol.23

セラミックジャパンとレムノス、2社と作り上げたRELIEF

デザインを軸にものづくりに真摯に向き合い、生活を豊かにする美しいプロダクトを生み出すセラミックジャパンとレムノス。2社との協業によりクオリティの高いデザインを実現した取り組みについてデザイナーの福定良佑さんにお話いただきました。

「文: 福定良佑」

発想は2014年のオリジナルアイデア

RELIEFのオリジナルアイデアを辿ると、初めてレムノスから依頼を受けデザイン提案を行った2014年まで遡ります。この時提案した時計デザインのアイデアに、磁器を使用した時計がありました。磁器の枠体にガラス板をあわせた時計をイメージしていましたが、実現するのは難しいものでした。自分自身、磁器の製造プロセスを深く理解しておらず、現実味が欠けた提案である事が当時のデザイン案を見るとよくわかります。

時計のデザイン案は実現に至らず何年か経った後、レムノスを通じて縁のあった瀬戸のセラミックジャパンと新規開発のプロジェクトが始まりました。実際に磁器の製造現場を見てプロセスを理解しながら、ガバ鋳込みと呼ばれる製造方法を用いたキャンドルホルダーを完成させました。プロジェクトで商品化のために試行錯誤する中で、磁器に関する理解も深まっていきました。

オリジナルのアイデアについてはすっかり記憶から消えていた2019年初め頃、レムノスと新たな時計の開発を行うことになりました。企画段階の打ち合わせの中で、以前提案したあの磁器の時計が再び話にあがり、そのイメージが一つの方向性となりました。以前は製品化に至りませんでしたが、セラミックジャパンとの協業を経た事で知見が増え、新たなデザイン案の原型を導き出す事ができました。

何度も試作を重ねた美しく浮かびあがる指標

この時計の大きな特徴として、磁器の表情を活かしたすり鉢状に緩やかにくぼんだ文字盤と、レリーフのように滑らかに浮かび上がる指標をデザインしました。指標の形状は機能面を損なわない範囲で、綺麗に浮き出るように形状を何度も調整しました。

上下左右の4つの指標は外側から内側に向かって徐々に細くなるくさび形状になっていますが、この形状を直線で作成すると視覚的に中間部分が痩せて見えるため、意図的に直線ではなく少し膨らみを持った曲線で指標を作成しています。このバランスを調整するために3DCADで形状を検討し、3Dプリントで出力して実物による確認をするというプロセスを繰り返し、最終的な形状を決定しました。

セラミックジャパンの持つ焼き物の技術

本体の形状を決定した後は、型をおこしてガバ鋳込みにより製造を行います。時計として心地よいサイズ感となるよう最終的な直径は274mmとしましたが、焼き物の原型は収縮率を計算してさらに大きく作る必要があります。このサイズの製品をガバ鋳込みで作る事は大きなチャレンジとなりました。

型に泥を入れてから捨てるまでのタイミングで、磁器の厚みは変化します。また、型を外すときにも少しの力の入れ方で本体が歪んでしまいます。これを歪みなく均一な仕上がりにするため、職人の技術が必要になります。

日によって異なる温度、湿度にあわせて泥を捨てるタイミングを調整し、石膏型を取り外す際には一度裏側の型を取り外した後にしばらく時間をおき、その後表側の型を外して形状を安定させます。これらの工程には、手仕事による経験が活かされています。

乾いた本体は、型のつなぎ目にできるバリをナイフで削り取り、泥の流れによる表面の細かな凹凸はスポンジで滑らかに馴らします。このような丁寧な作業を経て、乾いた本体は窯へと移されます。

1250度以上での窯焼きの工程を経て、綺麗な白磁の本体が出来上がります。本体のサイズが大きいため、白磁に鉄粉が飛んで黒い点がつくなど完璧な状態の本体を焼き上げるのにも手間がかかります。
セラミックジャパンの経験と技術によりこのような様々な難題をクリアし、本体の製造を実現しました。

カラーバリエーションへのこだわり

本体のデザインが決まった後も、製造時のロスを少なくすることを目的にカラーバリエーションを検討し、その製造方法を模索するのにかなりの時間を要しました。単に釉薬をかけて色を付けるだけでは、釉薬の厚みで見た目の形状が変わり、この繊細なデザインを表現できません。コロナ禍の開発ではありましたが、時には対面でコミュニケーションをとりながら、形状を維持できる最適な解決方法を見つけ出して、白磁にプラスして2つのカラーを作りました。

白磁をいかしたとホワイトと、マットなブルー、ベージュの3色のバリエーションは、どれも陰影が美しく、空間の質を高めます。

セラミックジャパンとレムノス、この2社にはデザインを軸に、ものづくりに真摯に向き合い、生活を豊かにする美しいプロダクトを生み出すという共通の姿勢があります。この2社が協業することにより、時計作りのノウハウと磁器という素材を製品にする知見が融合し、よりクオリティの高い時計のデザインを実現することができました。

製品ページへ

Ryosuke Fukusada

金沢美術工芸大学卒業後、シャープ株式会社を経て2008年ミラノドムスアカデミー(インテリアデザインコース)を修了。同年より、スペイン人デザイナーパトリシア・ウルキオラのスタジオで経験を積み、イタリア有名メーカーとの家具、照明、キッチンウェアなどのプロジェクトに携わる。2012年帰国後京都にFUKUSADA STUDIOを設立し、国内の企業をはじめ、イタリアやデンマークの企業とのプロジェクトの実績がある。家具・インテリア製品・家庭雑貨などの幅広いデザインを手掛け、それらのプロダクトは国際的なデザイン賞も多数受賞している。